再び動き始めたヨシメーター
大久保嘉人は焦っていた。
ホーム味スタには3万6000人の大観衆。
過去3戦不発に終わり、苛立ちだけを募らせ、
前節のガンバ大阪戦(●0-3)後には、
クラブのシンボルであるユニホームを脱ぎ棄て、蹴り上げた。
その行動に、諸手を挙げて加入を喜んだサポーターたちも、凍りついた。
だからこそ、大久保嘉人にはゴールが必要だった。
チーム全体でつかむ勝利よりも、ただひとつのゴールが。
一昨シーズンまで3季連続の得点王という看板を引っ提げ、
あろうことかライバルチームを新天地に選んだ男にとって、
名刺代わりの一発を叩き込むには、まさしく格好の舞台といえる。
ただそれでも、大久保嘉人は焦っていた。
開幕2連勝でチームは順風満帆なスタートを切ったかのように映った。
しかし前節の完封負けで、早くも綻びがあらわになる。
奪ったゴールは偶発的なものばかり。
再構築された攻撃陣は、いまだ有機的に機能してはいなかった。
ピッチではゴールを渇望するストライカーの怒号が響く。
嘉人のタイミング、欲しいポイントへのボールは、
なかなか出てはこなかった。
そんな焦燥をかき消したのは、
清水→広島を経て首都・東京にたどり着いた、
いやそれ以前も、ベルギー、デンマーク、中国を渡り歩いてきた
陽気なナイジェリアンFW、ピーター・ウタカだった。
歓喜の瞬間が訪れたのは終了間際の92分。
ウタカとのワンツーでエリア内に侵入した嘉人は、
相手GKを冷静にかわし、川崎の息の根を止める3点目を流し込んだのだ。
「練習のときから、いつも近くでやろうと話していました」
バイタルエリアで違いを生み出す相方の存在が、
嘉人の真骨頂を巧みに引き出した。
過去4シーズンの得点王タイトルホルダー(ウタカは昨シーズン)の共演。
ウタカ+嘉人=、という化学反応がいくつのゴールをカウントするのか。
今シーズンのFC東京から、ますます目が離せない。